奈央とアレックスが1年半住んだ「白鳩ヴィラ」は、この時、裕子が情報をくれた不動産会社の1社が紹介をしてくれた物件だった。
仕事が休みの土曜日に店舗に訪問をし、二人で暮らす予定であること、田園都市線沿線で住まいを探したいと思っていることを伝えると、「それでしたら、こちらのお部屋ですといかがでしょうか?」と、紹介をしてくれた物件が「白鳩ヴィラ」だった。
「こちらの物件、梶ヶ谷駅から徒歩10分の物件です。少し駅から遠い印象があるかもしれませんが、ご希望の洋風の雰囲気の間取りであること、それから賃料もご希望の13万円以内に収まります。それから、お聞きしてみないとですが、管理会社を挟まず大家さんが直接管理をしている物件ですので、融通は利きやすいように思いますよ。良かったら、今から内見にいきましょうか?」
実際に「白鳩ヴィラ」に足を運んでみると、1Fが大家さんご夫妻が運営をしているカフェになっていて、とても温かみを感じる物件だった。
2016年にできたばかりという建物はとても綺麗で、個性のある間取りにアレックスも奈央も一目で気に入った。
大家さんである関口さんとも、その場で少しお話ができて、とっても朗らかな印象なのも、安心感を覚えた。
「この部屋に住めたらいいね」とアレックスも即決。
自分たちの意向を不動産会社の営業に伝え、奈央とアレックスは不動産会社からの連絡を待った。
翌日、無事「入居OK」の連絡をもらい、こうやって奈央とアレックスは「白鳩ヴィラ」の一員となったのだった。
入居して3ヶ月。
奈央とアレックスは土曜日のランチは大家さんが運営する「シラハト商店」で食べるのが習慣となっていた。
食材にこだわって丁寧に手作りをしている「手作りお惣菜定食」が奈央もアレックスも大のお気に入り。
また、梶ヶ谷駅から10分も歩くと、昔ながらのご近所付き合いがあるのも、心地が良かった。
アレックス、そう言えば、普段エンジニアの仕事しているんだよね?」
「そうですよー。」
「ここによく集まるママたちが、子供にプログラミング習わせたいって言っていたんだけど、アレックス教えられたりする?プログラミングできて英語もできる人だと、英会話の勉強にもなるから、ママたちが喜ぶかなぁと思って。」
「面白そうですねー。僕もご近所の皆さんと、もっと交流できたら嬉しいです。」
「本当に!?ちゃんと授業料いただくようにするから、アレックス、先生やってくれる?」
「はい、もちろん。でも、僕がいる会社、別の仕事してはダメなので、お金じゃなくて、ここのお店のランチ券、どうですか?。」
「ランチ券ね!!わかった!!」
「こうやって、関口さんのおかげで、奈央とアレックスは地元の人と繋がり、顔を覚えてもらうきっかけが出来た。
引っ越し前には想像もしていなかった展開に、引っ越しを諦めなくて良かったと奈央は今でも思う。
人と人とが顔を合わせ、交流をし始めると、国籍も肌の色も言語も関係ない。
ボディーランゲージでも十分にコミュニケーションが図れてしまう中で、大事なことは、お互いを理解し、お互いを尊重しようという気持ち。
そのことを、奈央は今回「白鳩ヴィラ」に出会うまでの経緯を思い出して実感していた。
引っ越しても、また「シラハト商店」にランチを食べに来よう。
そして、職場の同僚で住まいを探している人がいたら、このヴィラをお勧めしよう。
それが、奈央とアレックスが「白鳩ヴィラ」にできる恩返しだから。
私たちは今、多くの情報に日々触れていて、だからこそ、ネットの情報よりも、近しい友人の情報に価値を置くようになってきている。
長い目で見て、住んで下さった方が良い口コミをしてくださるかどうか?が、賃貸物件に問われている真の価値なのかもしれません。
Fin