【武蔵新城】メゾン・ヴェールN 5
【川崎:JR南武線沿線】
ストーリー
「はーい、わかりました。気をつけてね。」
「陸、幼稚園出掛けるぞー」
「あ、陸のお弁当!!」
大塚家の朝はいつも慌ただしい。
それもそのはず。
南武線・武蔵中原駅から五反田の会社まで通う夫の涼介と、幼稚園に通う息子の陸(りく)の出掛ける準備に追われるからである。
特に息子の陸は、控えめでおっとりした性格のようで、朝の準備にも何かと時間がかかる。早く起きても、ご飯を食べて、着替えをして、荷物の準備をしているうちに、気づけばいつもギリギリの時間になっている。
ありがたいのは、夫の涼介が朝は幼稚園に送っていってくれること。
陸が生まれるまでは、いわゆるDINKSとして共働きをしてきた二人にとっては、子供が生まれてからも、できる範囲で家事や子育てを分担する形で今も暮らしている。
真衣が出産後はパートの仕事についてからは、真衣が家事・育児をする割合は増えたけれど、それでも夫の涼介に家事・育児について不満を持ったことはほとんどなかった。
ある一つのことを除いて・・・。
深夜1時。
リビングに明かりが付いたので、真衣は目が覚めた。
どうやら、今の時間に涼介は帰ってきたようだ。
眠い目をこすりながら、真衣は涼介がいるリビングで足を伸ばした。
「おかえりなさい。遅かったね。」
「あぁ。飲み会が3次会まで続いて参ったよ。」
「最近、いつにも増して帰るの、遅くない?」
「今、新しいプロジェクトで忙しいんだよ。当分、続くと思う。」
「そう。陸もパパと遊んでないって寂しがっているから、早く帰れる時は帰ってきてね。」
「あぁ、わかっているよ。」
そう、夫・涼介の帰りが遅いのだ。
この働き方改革が叫ばれているご時世で、涼介の忙しさは完全に世間の流れから逆行している。
以前は夜9時くらいには帰ってくる生活だったのに、何かのプロジェクトリーダーに抜擢されたとかで、それ以来、残業や接待が増えている。
自然と帰ってくるのが深夜時間になり、いつも陸が寝ている時間にしか夫・涼介は帰ってこない。
本人的には、それでも朝、陸を幼稚園に送っていく時間に息子とコミュニケーションを図っていると言い張っているが、やはりそのしわ寄せは真衣に来ていた。
陸がなかなか寝てくれないのだ。
パパを待っていると言って、夜まで起きているようになり、結果的に朝起きられないという悪循環。
今は涼介も頑張る時だから仕方ないと思いながらも、内心はもう少し家族と、息子といる時間を作って欲しいというのが本音だった。
「仕事、詰まっているけれど、その日はなんとしても早く帰ってくるよ。準備は任せてもいい?」
「うん。19時くらいからお祝い始められると嬉しいんだけど・・・」
「19時な、わかった!ちょっと遅れるかもしれないけど、会社出る時にまた連絡する。」
来週は息子・陸の誕生日。
毎年、誕生日の当日は涼介と真衣と陸の3人でお誕生日会をして、その週末はじぃじとばぁばが遊びに来てくれて、3世代でもう一回お誕生日会をするというのが大塚家の習慣となっていた。
陸から、「お誕生日の日は手巻き寿司が食べたい!」とリクエストももらっていて、真衣はパートと家事の合間を縫って、陸のお誕生日会の準備を一人で進めていたのだ。
誕生日当日。
手巻き寿司もできた!ケーキも陸の好きなチーズケーキを手作りした!お祝い用の部屋のコーディネートも出来た!
あとは、涼介を待つだけとなった時、LINEに1通のメールが届いた。
その時、何故か真衣は嫌な予感がしたのだが、その嫌な予感の原因をすぐに真衣は知ることとなった・・・。
「ごめん。トラブルが起きた。今日、多分遅くなる。」
涼介から届いたLINEには、こう書いてあった。
「え??」
真衣な事態がすぐには飲み込めなかった。
トラブルが起きた・・・、今日は遅くなる・・・。え?ということは、陸の誕生日をお祝いする場所に涼介は来ないということ・・・・・?
「え?だって、もう陸も楽しみに待っているよ。何時くらいになるの?」
そう真衣が返したLINEのメッセージは、既読にすらならなかった・・・。
陸に、パパは仕事で来られないことを伝えると、嫌だ!嫌だ!と泣き出し、案の定、誕生日を祝うどころではなくなった。
泣き疲れて、何も食べずに寝てしまった息子を見ながら、真衣は張り詰めていた糸が「プツ」っと、切れた感覚を覚えた。
~私たち、何のためにこの場所に引っ越したんだろう?~
それまで都内に住んでいた二人だったが、元々アウトドアが好きで、仕事をリタイアした後は、西海岸に住むか、もしそれが無理でも、茅ヶ崎辺りに住みたいねと話していた。
子供が生まれたら、キャンプに出かけたり、海・山に連れ出して、自然の楽しさも伝えたいと思い、アウトドアに出かけやすい場所を探して、引っ越しをしたのだ。
最初は千葉を引っ越し先に考えたが、涼介の勤務先へのアクセスがどうしても悪くなってしまう。
それならば、横浜・湘南も近くて、都心にもアクセスしやすい場所と思って、武蔵小杉の物件を探してみたのだが、条件に合う物件は見つからなかった。
コスギバブルで、物件の価格が高く、これから子供の養育費のことも考えると、住む場所としては現実的ではなかったのだ。
そんな時に、最初の物件を紹介してくれた不動産会社から紹介をされたのが、今住んでいる物件だった。
武蔵中原。
初めて聞いた駅名だったが、武蔵小杉まで2駅。時間にして3分。
駅から歩いて10分くらいの今の住まいは、外観はどこにでもある普通のマンションだ。
でも、内見で部屋を見た時に、直感でここにしよう!と決めた。
決断したポイントは、バルコニー。
家賃や駐車場の料金、部屋の広さなど、細かな合格点を上げたらキリがないけれど、一番惹かれたのは、広いバルコニーだった。
バルコニーにテーブルと椅子を置けば、屋外キャンプ気分でご飯を食べたり、お酒も飲める。
そして、バルコニーの先に見えるのが、武蔵小杉の高層マンション群。夜景も綺麗だった。
そして、この場所からであれば、丹沢や三浦半島など、色んな場所にアウトドアをしに出かけられる。
子供ができたら、月に1回はアウトドアに出かけようね。
そんな話をしながら、住まいをこの場所に決めたのだった。
それから、早5年。
今、その時に語っていた生活とは程遠い生活をしている。
確かに子供は可愛い、すくすく育ってくれている。夫も仕事を頑張ってくれている。側から見ると、幸せな家庭に見えるのかもしれない。
でも、夫が家にいない、子供の年に一度の誕生日すら一緒に過ごせない。
これって、本当に幸せの形なのだろうか?
真衣は、自分の心に聞いた。
「もっと、一緒にいる時間を作りたい。
もっと、子供と一緒に過ごして欲しい。
もっと、思い描いたような週末の過ごし方をしたい。」
それが真衣の本音だった。
そして、その気持ちを涼介に告げる覚悟をした。
もしかすると、家を出るかもしれないという選択肢も抱えた上で。

(3ヶ月後)
大塚涼介・真衣・陸の3人は、丹沢のキャンプ場にいた。
初めてのキャンプ場に陸はキラキラと目を輝かせている。
「真衣ー!陸と川遊びしてくるー!」
そう言って、涼介は陸と連れて川へ向かっていった。
今回はコテージを借りたので、男二人が出かけている間は真衣にとって、一人時間を楽しめる時。
ずっとゆっくり読みたいと思っていた本を読みながら、出かけていく二人の後ろ姿を見送った。
「あの時、勇気を出して涼介に話して良かった」
と、真衣は心から思っていた。
家を出る覚悟もしていた真衣。
その差し迫った様子に涼介もすぐに気づいたようで、二人で、これから先、どんな時間を過ごしたいのか?をもう一度話した。
~引っ越し前に思い描いたような家族の時間を作ろう~
これが、二人の総意だった。
仕事三昧になっていた涼介は、接待をできるだけ減らし、会社へも残業抑制を働きかけるようになった。
それでもどうしても終わらない仕事は、集中できる朝にやろう!ということで、今までよりも早く会社に出勤するように。
人が少ない朝の社内は仕事がはかどるし、通勤電車も空いているようで、涼介も朝活のような仕事スタイルを気に入っているようだ。
涼介が早く会社に出勤するようになったため、陸の送り迎えは朝・晩ともに真衣の担当。
しかし、真衣はそのことが全く不満ではなかった。
何故なら、涼介が早く帰ってくるようになったことで、陸はよく笑い、家族がまた一つになっていくことを感じたから。
しかし、男性とは「これ!」と決めると、とことんハマる生き物なのだろうか。
あんなに仕事にハマっていた涼介は、もちろん今も仕事も一生懸命しているけれど、それ以上にハマりはじめたのが「キャンプ」だ。
月1回、家族3人でどこかのキャンプ場に出かける。
週末、天気が良ければバルコニーに出てご飯を食べるというのが、冬の期間を除いて継続しそうな勢いだ。
部屋は私たちの人生を彩ってくれる。
どこに住み、どんな生活をするのか?その中心になるのが「住まい」なのだと思う。
でも、その人生を彩るために欠かせないのは、「どんな生活をしたいのか?」という入居者・家族の想いだ。
想いが核となり、想いを叶える手段として「住まい」がある。
あなたは、どんな想いを持って、今の場所に住んでいますか?
Fin
物件概要
間取 |
2DK |
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広さ |
47m2 |
アクセス神奈川県川崎市中原区下新城2丁目3-25
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マップ
神奈川県川崎市中原区下新城2丁目3-25
オーナー
長戸隆彦
16歳から10年間サンフランシスコに留学し、学生時代を過ごしました。
2012年より親とともに大家業をスタート。2018年に社宅として活用された建物をシェアハウスにコンバージョンし、現在管理などに携わっています。
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