【糀谷】ピアーチェウチムラパートXXII
【大田区:京急空港線沿線】
ストーリー

ずっとCAになりたかった・・・。
学校卒業と同時に新卒としてエアラインに就職ができれば良いほう。CAに憧れ、夢を叶えるために就職浪人をし、専門学校に通う女性は今も多い。
憧れのCAになるために、何年もの月日を費やす人もいれば、国内だけでなく海外のエアラインへの就職を目指して、面接のために海外まで出向く人もいるほどだ。
このSTORYの主人公・小松はるかも、CAに憧れ続けた一人。
中学生の頃に初めて乗った飛行機でCAの存在を知り、華やかで煌びやかな世界に憧れ、就職先はCA一択でエアラインへの就職を目指した。
新卒採用では残念ながらどこからも内定が得られず、諦められずに就職浪人をすると決め、アルバイトをしながら専門学校に通い、CA内定を目指す日々。
やっと客室乗務員として飛行機に乗れる切符を手にしたのは、学校を卒業してから3年目の頃だった。
それから3年。
はるかは、今日も羽田空港・国内線のターミナルにいた。
「お疲れさまでした!」
「はるか先輩、お疲れさまでした!あの、今日良かったらこの後、みんなでご飯行きませんか?何人かと夕飯食べに行こうって話していて・・・。」
「りなさん、誘ってくれて嬉しいのだけど、今日は遠慮しておくわ。なんだか疲れが取れなくて、今日はまっすぐ家に帰ろうと思うの。」
「先輩、大丈夫ですか?今日のフライトの時も疲れている感じでしたものね。お大事にしてください!」
「ありがとう。」
ずっと憧れていた仕事に就くことができた嬉しさを最初のうちは噛み締めていたはるかだったが、CAはとても体力が必要な仕事ということを甘くみていた・・・。
国内線は国際線に比べれば、時差もなく、フライト時間も短いものの、その分、1日にフライト4~5往復する日もざらで、とにかく立ちっぱなし、気を遣いっ放しで長時間に渡って空の上にいるのがCAの宿命だった。
欠員を出すわけにもいかないので、待機というシフトもあり、もし待機スタッフの時に連絡が入れば緊急出勤することもある。
CAへの就職が決まった時は、ドキドキワクワクして見上げていた羽田空港の空も、今や日常と課してしまい、気持ちの高揚感を感じることもなくなってしまった。
「ただいまー。」
誰もいない部屋に向かって玄関から挨拶をし、電気を点けて家に光を灯す。
ピアーチェウチムラパート22。2DK、42平米。
はるかが今のエアラインに就職すると同時に一人暮らしを始めたマンションだ。
一人暮らしのはるかにとっては、少し広い間取りだが、ずっと一軒家に住んできたはるかは、どうしても広めの部屋に住みたかったのだ。
11万円の家賃も、今の時代のCAにとっては、決して安い金額ではない。
しかし、それでも「その分、夢が叶ったCAの仕事をしっかりと全うしていこう」という決意の元、この部屋を借りたのだった。
そしてもう一つ、はるかはこの部屋に、ある思い入れがあった。
大家さんとも出会いだ。
最後まで一人暮らしを反対していた父親が、最後の最後ではるかの一人暮らしに承諾をしてくれたのが、このマンションの大家さん「内村さん」との出会いだったのだ。
ずっと製薬メーカーで働いてきたはるかの父。母がはるかが小学生の頃に他界していたため、男手一つではるかを育ててくれた父。
ブツブツ言いながら部屋の見学についてきた父が、どの物件を見ても渋った反応しかしなかったのに、この部屋だけは「この部屋だったらいいぞ」と言ってくれたのだった。
理由は、大家さんも同業界の経験者だったから。
不動産屋さんが物件の紹介と合わせて見せてくれた「わくちん」という住宅情報サイトに載っている大家の内村さんのプロフィールが、父が快諾する決め手となった。
そんな思い入れがあるこの部屋が、今や殺風景で無機質な場所と化している。
明かりの灯った部屋に入り、なだれ込むようにソファに座ったさおりは、そのままテレビを付けた。
「あぁ、明日も朝5時出勤かぁ・・・」
そんなことを考えながら、駅の近くの惣菜屋さんで買ってきたお弁当を夕飯代わりに食べた。
気づけばもう3ヶ月も自炊をしていなかった。
「私、CAの仕事、続けたいのかなぁ・・・」
38.5度。
頭が痛いと思って熱を測ってみたら、見事に熱が出てしまった。
「おはようございます。小松です。すみません、発熱をしてしまいまして、本日のフライト、お休みをいただいても良いでしょうか?・・・はい、わかりました。夕方には明日の仕事に差し支えないか、再度連絡を入れるようにします・・・。はい、ありがとうございます、失礼します。」
会社に連絡を入れ、今日は休みとなったはるか。
さすがに明日も休むわけにはいかないと思い、近所のクリニックに行き、解熱剤と薬をもらい、時間を忘れるように寝た。
目がさめると、もう午後三時。
久々にすっきりとした目覚めを感じ、熱を測ったら、もう平熱に戻っていた。
「久しぶりに外にお茶でもしに行こうかな。」
そう思って、はるかは、近所にある、少しオシャレなカフェに足を伸ばした。
「ご注文をお伺いします。」
「ケーキセットをください。飲み物はアイスコーヒーで、ケーキはモンブランで。」
「はい、かしこまりました。」
注文後、店内を見回すと、はるか以外の客は同年代くらいの男性が一人だけだった。
ラフなジーンズにパーカー姿。はるかから見える顔の角度は横顔だが、よく見ると、どこかで見たことがあるような顔だった。
「あれ?山下さんですか?」
はるかは、思わず声をかけた。
「え?小松さん?なんでここに?」
「私、この辺りに住んでいるんです。今日、体調を崩してしまって・・・。山下さんは?」
「え?小松さん、糀谷に住んでいるの?僕もこの辺に住んでいるよ。徒歩3分くらいのところ。」
「そうなんですか、偶然ですね!山下さんは、今日はお休みですか?」
「うん、今日はシフトが休みだったから、1日のんびりしようと思って。このカフェ、居心地が良いから、たまに来るんだよね。」
山下さんは、羽田空港で働く整備士。頻繁に会うわけではないが、たまに空港内ですれ違ったり、挨拶をすることがある人だった。爽やかな笑顔が素敵な人だなと、好印象を持っていた人でもあった。
せっかくだからと、離れて座っていた席から移動し、同じテーブルで向かいあって、話し始めた二人。
しっかりと会話をするのは初めてなのに、思った以上に話しが盛り上がって、気づけば3時間が過ぎていた。
「小松さん、明日早いんじゃない?時間大丈夫?」
「あ!もうこんな時間。そうなんです、早朝出勤の日です。お気遣いありがとうございます。」
「良かったら、今度このあたりで一緒にご飯食べない?僕、行きつけのお店、結構開拓しているんだ。」
「わぁ、嬉しいです。ぜひ!」
自宅に帰ってから、はるかはふと思った。
こんなにゆったりと心地よく時間を過ごしたのは久しぶりかもしれないと。
そう感じたら、思い入れを持って住み始めたこの部屋を、もう一度、居心地の良い部屋に生まれ変わらせたいと自然と思うようになった。
次の休みの日は、掃除と久しぶりに自宅でご飯を作ろうかな・・・。
鏡に映った化粧っ気のないはるかの顔は、自然と笑顔になっていた。

~3ヶ月後~
「ただいまー。」
フライト帰りのはるかは、いつもの自宅マンションに帰ってきた。
いつもと変わらない光景・・・ではなく4ヶ月前とは違う日常がそこにはあった。
「おかえりー。」
自分を出迎えてくれる誰かの存在ができたのだ。
その相手は、3ヶ月前に偶然カフェで知り合った山下さん。
あの出会いをきっかけに付き合うことになり、今でははるかが住む部屋に二人で住んでいる。
父の想いをきっかけに出会った今の住まい。
一度は人とのつながりや自分が大切にしたい想いを忘れてしまうそうになったが、山下との出会いで、はるかはその感情を取り戻すことができた。
今週末、はるかは父に初めて彼を紹介するつもりだ。
Fin.
物件概要
間取 |
2LDK |
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広さ |
Coming Soon |
アクセス東京都大田区西糀谷1-29-16
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マップ
東京都大田区西糀谷1-29-16
オーナー
内村兼一・内村直美
大学の薬学部卒業後、製薬会社へ就職。薬剤師国家試験合格後、調剤薬局勤務を3年ほど勤務。
平成8年に白衣を脱ぎ、宅建業者として父の所有する物件の管理業をスタート。
現在も家族みんなで自主管理をしながら、父の物件を日々見守り続けております。
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