「チョコー。朝のお散歩に行くよー。」

「ワン、ワン、ワン!!!」

永井家の朝は愛犬であるチョコとの散歩から始まる。

チョコの散歩にお供するのは、長女であり一人娘の「華(はな)」。華が6歳の時にチョコは永井家にやってきたので、華とチョコとの付き合いはもう12年になる。

犬の平均寿命は14歳ほど。

そう考えると、チョコもだいぶシニア世代に入ってきて、心なしか最近はゆったりとしたペースで散歩をするようになってきた。

一人っ子である華にとっては、チョコと一緒に過ごす散歩の時間は、まるで姉妹と過ごす時間のようなもの。チョコが永井家にやってきた小学校1年生の頃から今まで、悩み事はいつもチョコとの朝の散歩のときに相談をしてきたのだ。

最近の悩みはもっぱら大学受験のこと。

小さい頃に骨折をして入院をした時の看護師さんがとても優しくて、それ以来、華はずっと看護師になることを志望してきた。

しかし、いざ受験期に入ると、果たして本当に看護師を目指す道に進んでいいのか?ずっと一緒に過ごしてきたクラスメイトと離れる寂しさなど、色んな感情が湧いてきてしまって、なんだか最近は落ち着かない。

更には、都内で中堅商社の人事部に勤務する父の口癖は「自立をしなさい」。

実家のある川崎市:宮崎台からであれば十分通える距離にある看護学部はあるけれど、「一人暮らししてこそ自立の力が付く」と言われていて、高校を卒業したら一人暮らしをするように言われているのであった。

いつもチョコとの散歩で行く公園のベンチに座って、華はチョコに話しかけた。

「ねぇ、チョコ。私と離れたら寂しい?」

「ワン!ワン!!」

華の言葉を表情から察したのか、チョコは華を元気付けるように朝から元気よく華に向かって声を上げるのだった。

「チョコー。人間の世界は大変だよー。わたしは、そろそろ自立しないといけないんだって・・・。そしたら、チョコと離れて住むことになるんだよね。犬の世界にも自立ってあるの?」

「ワン!ワン!」

「受験勉強も今から頑張らなきゃいけないから、チョコと一緒にいれる時間も減っちゃうかもしれないなー。でも、散歩は毎日一緒に来ようね。」

「ワン!ワン!」