土曜日の昼下がり。

母:玲子と娘の華は賃貸サイトでチェックをしていた物件見学に行くべく、予約をしていた不動産屋へ向かった。

社宅住まいが長かった二人にとって新しい部屋探しというのは未知の領域。

遠足に行くような気分でワクワクしながら不動産屋さんに向かったのだった。

「お客さま、ペット可の物件をお探しと伺っておりますが、ペットの種類はなんでしょうか?ワンちゃんですか?猫ちゃんですか?」

「うちは犬になります。」

「そうですか。失礼ですが、ワンちゃんの大きさはどのくらいでしょう?小型犬・中型犬・大型犬、どれに当てはまりますか?」

「チョコはそうですね・・・。えーっと、大きさはこのくらいになります!」

華はいまいち小型犬・中型犬・大型犬の分類の仕方がわからず、ジェスチャーで店員さんに説明をした。

「結構、大きなワンちゃんでいらっしゃるんですね。そのくらいの大きさでしたら大型犬ですね。とすると、残念ですがお客さま、内覧をご希望されていた物件は小型犬のみ可となっておりますので、大型犬のワンちゃんですと、厳しいです・・・。」

「え?そうなんですか??今までの社宅では、犬を飼うときに特に何も言われなかったんですが・・・」

「その社宅や大家さんの意向によります。通常、賃貸の場合ですと、ペット可、特に大型犬可という条件となると、だいぶ物件数は減ってしまいます。」

「そうですか・・・。でもチョコは大事な家族なので、チョコと一緒に住める場所を見つけたいです。」

「かしこまりました。では、大型犬可で、宮崎台でお探しということですね。うーん、そうですね、今のタイミングですと、なかなかご希望の物件がなさそうですね・・・。一軒家ですと、いかがでしょうか?」

「うちは娘が来年から一人暮らしの予定なので、一軒家ほどの広さを必要としていないのです。今は3LDKなんですが、1部屋減らして2LDKくらいで丁度良いかなと思っています。」

「そうですか・・・。そうですねー。あ、1件、年末頃に退去予定の物件で大型犬可のところがあります。最寄駅も宮崎台ですし、2LDKなので、条件的には合いそうかと。でも、今住んでいらっしゃる方がいるので、内覧ができるかどうか・・・。」

現在、入居者がいる部屋の場合、退去するまで内覧ができないことが多い。不便とも思えるが、今の自分の住まいを他人に見せることに抵抗感があることは、ある意味当たり前とも言えるだろう。

「酒井さん、その物件、越水さんのところの物件だよね?越水さんのところなら、相談すれば入居中でも内覧できるかもしれないよ。」

玲子と華の接客をしてくれていた酒井さんと呼ばれた営業マンの横に座っていた人が、ふいに声を掛けた。

「そうなんですか?じゃあ、ちょっと連絡を取ってみますね。」

そう言って、酒井さんは紹介をしてくれた物件の大家さんに連絡を取ってくれた。

相談の結果、来週末に入居者の了承をもらって新しい物件の内覧ができることが決まった。

どうやら、不動産会社が紹介をしてくれた物件は、自主管理と呼ばれる大家さんが直接管理をしている物件らしい。だから、入居者の方ともコミュニケーションが取れていて、入居中の内覧もOKしてくれたようだ。

いずれにしても、一番驚いたのは、大型犬可の物件があまりにも少ないこと。

こんなに犬・猫を飼う家庭は増えているというのに、まだまだ犬にも猫にも優しくない賃貸事情を垣間見てしまった気がする。