結婚して15年。その間に引っ越し3回。
転勤族の夫と一緒になってから、知らない土地に引っ越して、そこの文化を知り、新しい人間関係を作る生活をそれなりに楽しんできたけれど、
つ、つ、遂に、、、夫が本社勤務になった。
本社がある場所は、東京:渋谷。
長崎生まれ長崎育ち。結婚後の赴任先も地方ばかりだったので、夫の出世は嬉しいけれど、慣れない都会生活にこの歳から馴染めるんだろうか。そうは言っても、1ヶ月後には本社配属になるので、その間に転居先も決めないといけないのね。なんだか、せわしない1ヶ月になりそうね。
この物語の主人公:立花よう子は、夫から夕飯の際に本社異動の話しを聞いた。
「あなた、転居先は私たちのほうで自由に決めていいの?」
「うん。今まで通り会社が家賃補助をしてくれる形になるそうだ。都心勤務だから、住宅補助は月10万円まで出るらしい。引っ越し費用も会社が負担してくれるようだから、どこかで日を決めて物件の見学にいかないとだな。」
「そうね。でも一体どこに住めばいいのかしら?田舎暮らしの私にとっては、都会住まいは慣れないし、なんだか家選びが今まで以上に気が重いわ・・・。」
「そうだなぁ。僕は勤務先の渋谷まで電車一本で出れる場所だったら、どこでもいいよ。今住んでいる一軒家のような広さは都心だと難しいかもしれないけれど、広さもあって自然が多い場所だと住みやすい気がするなぁ。物件選び、よう子に任せるから、僕が仕事に行っている間、物件探してもらえるかな?」
「渋谷に一本で行ける場所ね。わかりました。私も広さがあって、都会的な街よりは庶民的な雰囲気がある場所がいい。いつ頃内見に行けるか、スケジュールが決まったら教えてちょうだい。私もインターネットでお部屋、調べておきますね。」
どうやら当面のよう子のスケジュールは転勤後の部屋選びに埋め尽くされそうな予感だ。
「ええと、希望沿線は田園都市線と東横線、それから神奈川県にチェックを入れて・・・。」
慣れないパソコンの画面に向かいながら、よう子は引っ越し先の物件探しを賃貸仲介会社のサイトを使って進めていた。
・田園都市線か東横線
・住所は神奈川県
・2DK以上
・駐車場付き
・家賃15万円
これがよう子が夫とここ数日話して決めた、新しい物件探しの条件だ。
今まで地方住まいで広い部屋にばかり住んでいたよう子にとっては、家の広さと、車社会で生きてきたので、そのまま車生活をするための駐車場付きという条件はどうしても外せない条件だった。また、会社から10万円家賃補助が出たとしても、今住んでいる一軒家は購入をしていて、まだ住宅ローンが残っている。老後の蓄えのことも考えると、自己負担は5万円以内に収めたいところ。ということで、月の家賃は15万円まで。
更には、どうしても東京=都会というイメージが抜けず、少し離れた場所でゆったり暮らせる場所を探そうということで、住む場所も東京ではなく、渋谷に出てきやすい東京のお隣、神奈川県で探すことにしたのだ。
とはいえ、物件数が多すぎる・・・。
少しずつ条件を細かく追加しながら、よう子は内見する物件を探していた。
「あれ??」
そんな中、一つの物件に目が止まった。個性のない物件画像が並ぶ中で、一際目立つ室内の写真。キッチン周りがオシャレな色にカラーリングされている。
「へー、なんか面白いお部屋ね、ここ」
よくよく条件を見てみると、田園都市線沿線、2DK以上、駐車場付き、家賃15万円以内。全ての条件を満たしていた。
~あら、いいかもしれない~
そう思って、仲介会社に連絡を入れ、週末に夫と一緒に内見できるように予約をしたのだった。
内見予約を入れた物件は計4部屋。土曜日に行って1泊する予定にしたので、あとは対応してくれる仲介会社に相談をして、当日出来る限り他の物件も見せてもらって、日曜日には住む部屋を決めよう、そうよう子は心に決めていた。