恭平が転勤を言い渡されたのは、ちょうど1ヶ月前の3月初旬。
転勤があることは知っていたけれど、実際に転勤した同僚はおらず、縁のない話だと思い込んでいた。
あと数年は、娘の空が小学生になるまでは、宇都宮でのんびりと暮らすものだと思っていたから、想定外の事態に恭平と藍は混乱を隠せなかった。

恭平と藍は、高校の同級生。
社会人になって地元の同窓会で意気投合し、3年前に結婚した。2年前に空が生まれて3人暮らし。恭平は大学卒業後からIT系の企業に勤め、藍は保育士として働いていた。
2人とも宇都宮を出て暮らしたことがなかったから、初めての都心での生活に向けて何をどう進めたらよいかわからず、不安でいっぱいだったのだ。

とはいえ、転勤が決まったからには動き出さなければならない。
恭平と藍は、転勤先の住まいについて調べ始めた。
「恭平の勤務先は、桜木町というところよね?桜木町って、あの「ゆず」の歌に出てくるところじゃない?」
「そうそう。なんかあの辺に「ゆずの木」っていうファンの聖地があるらしいよ」
「へえー、おもしろいね。こうやって地図を見てみると、横浜にも住宅地が結構あるのね。観光地やビジネス街だけだと思ってたわ」
「本当だね。「横浜に住んでます」って一度でいいから言ってみたいなあ。笑 あ、そういえばこの前テレビで、武蔵小杉はたくさんマンションが建って暮らしやすいエリアだって紹介してたよ!」
「その番組一緒に見たよね。武蔵小杉にはおしゃれなカフェもいっぱいあるって言ってた!」
「せっかく住むのならカフェ巡りも楽しみたいね。」
「うん。ねえ、、まずは一度行ってみない?」