「佐々木さん、どのような条件で部屋を探していらっしゃいますか?」

「職場が川崎駅の辺りなので、出来るだけ職場に近い場所で、出来れば家賃6万円くらいのところがいいんですが・・・」

「川崎エリアで家賃6万円・・・。今、川崎の辺りは新築のマンションがどんどん建っていて、人口が増えているので、結構家賃相場も上がってきているんですよね。南武線の各駅停車の駅であれば、ご希望に合う物件があるかもしれませんね。」

「あ、あと、もう一つ・・・」

「何でしょうか?」

「いえ、あ、大丈夫です・・・。駅から近いと更に嬉しいです。」

「うーん、家賃6万円、駅近の物件・・・。いくつか内見に行きましょうか。」

「はい、よろしくお願いします。」

こんな感じで、所謂よくある不動産会社の営業マンとのやりとりを通じて、大輝は今の住まいを手にいれた。

大輝が今住んでいる武蔵新城というエリアは、川崎駅から南武線で約20分。正直、最初に案内をされた時は「遠い」という印象だったが、街に着いた瞬間、その印象は一瞬のうちにかき消された。何故なら、大輝が生まれ育った街の雰囲気にすごく似ていたからだ。

駅を降りると目の前にスーパーがあり、そこに出入りする地元の人たち。少し道を歩くと、古くからあるお店と新しく出来たお店が交互に入り組んだような街の作り。一度お店の中に入ると、店員さんと常連さんが会話を交わしながらコミュニケーションを取っている様子もなんだか懐かしい。

関西から就職で初めて関東に引っ越してくる大輝は、新しい生活に馴染めるか、心の中でとても不安を抱えていた。

それが、この武蔵新城の街と自分の生まれ育った街を重ね合わせた時に「ここなら新しい生活を楽しめるかもしれない」と思うことが出来たのだ。

人の感情とは、とっても曖昧なもので、ついさっきまでは、電車20分なんて遠い!と思っていたのに、街の雰囲気を肌で感じた瞬間に、「この街なら20分かけてでも職場に通う価値がある」と意識が変わったりする。

大輝はそんな自分の変化を客観的に「都合の良い奴だ」と思いながらも、居心地の良い街を見つけることが出来た自分の幸運に感謝した。

「佐々木さん、ご紹介する物件、こちらです。」

そう促されて、大輝は内見先の物件に入った。

「家賃は6万2000円でご希望の金額より2千円高くなってしまうんですが、駅から徒歩2分で近いですし、目の前に西友もありますし、飲食店も近隣にたくさんあるので、男性の一人暮らしにはかなりオススメのお部屋です。あと、このお部屋、男性向けの内装が施されていて、とにかくおしゃれなんですよ!!」

「あ、あの、ここにします。凄いですね!こんなおしゃれな内装にしてくれる大家さんっているんですか!?」

「ここの大家さんは、武蔵新城でもたくさんの物件をお持ちで、この部屋のように内装にこだわった部屋も複数作っているんです。なかなかないですよ、こんな内装の物件。即決される気持ち、僕もよくわかります(笑)ご近所でカフェの運営もされていらっしゃるので、引っ越してきたら行ってみられたら良いと思いますよ。」

「そうなんですか!本当にいいですね、この部屋。」

「では、この物件で審査を進めるようにしますね。無事、決まるといいですね。」

こうやって、大輝の初めての一人暮らしの部屋が決まった。