一人暮らしをはじめて1年。
もうすぐ桜が咲くであろう春の季節。大輝は行きつけの中華料理屋に今日も向かっていた。
一つだけいつもと違うことは、今日は一人ではなく隣に女性が一緒ということ。そう、職場で出会って最近付き合い始めた彼女だ。
「いらっしゃいませー!あら?大輝くん。今日は一人じゃないの!?」
「そうなんです、今日は二人で来ました!」
「可愛い子を連れてきたわねー。彼女?」
「あ、はい、遂に出来ました!」
「そうー、初めまして。いつになったら彼女を連れてくるのかと心配していたのよ、おばちゃんは。こんな可愛い彼女が出来たのなら安心ね。どうぞよろしくお願いします。大輝くん、今日は何にするの?」
「いつもの、ハイボールとレバニラ定食で。」
「はい、ハイボール濃い目ね!」
「彼女さんもメニュー決まったら呼んでくださいね。あんたー、やっと大輝くんが彼女連れてきたわよー、めでたいわね、今日は!」
武蔵新城に住んで1年。
たった1年だけど、大輝にはすでに家族のような居場所が出来た。中華料理屋のおじちゃんとおばちゃんは、大輝が体調不良の時も心配をしてくれたし、彼女を連れてきた今日も、我が子が彼女を連れてきたかのように喜んでくれた。
そして今日は初めて彼女を一人暮らしの家に招待をする日。
あのオシャレな内装の部屋を見て、彼女は喜んでくれるだろうか。
「じゃあ、そろそろ行こっか。」
実は男性は女性以上に繊細な生き物。
新しい土地で新しい環境に馴染み、彼女を作るというのも、実は勇気がいることだ。だって、フラれたら凹むから・・・。
そんな中、オシャレな内装の部屋に住んでいるという事実が大輝の繊細な性格を後押ししてくれた。
だって、彼女をこの部屋に呼びたかったから。この街を案内したかったから。
これから彼女ともっと一緒に、この街で、そしてこの部屋で過ごせる時間が多くなりますように。
そう願いながら大輝は彼女と一緒に一人暮らしの部屋に向かった。
Fin