西野洋平 31歳。
趣味のサーフィンで小麦色に焼けた肌。
子育てや家事も手伝うイクメン。
テンポの良いカリスマ的授業を展開。
と3拍子揃った、世間も羨むような小学校教諭を目指している。

けれど、ご存知の通り現実はそう甘くない。

「洋平!ティッシュ取って!早く!」
「はいはい!ごめんね!」
「うえ~~~~ん」
「もう、ほら泣いちゃった」
「ごめん…..」

半年前に生まれた愛娘の絵美。
もう可愛くて可愛くてたまらない。
でもどう接していいのか全くわからず。
毎日、妻・夏希からのクレームと絵美の泣き声との狭間で奮闘している。

理想像とはまるで程遠い。
週末の度に行っていたサーフィンも、今はお休み。
勤務し始めた新しい小学校にも、まだまだ慣れない。
軽くパニックの毎日だが、「こういう時期があっても、それはそれでいいかな。」と思えるのは、この家に引っ越したことが大きかったかもしれない。

4ヶ月前、川崎駅近くの1LDK・46m2のアパートに住んでいた3人。
新婚当時、洋平が勤務する小学校が川崎駅の近くだったこともあり、徒歩で通勤できるからと選んだ物件だった。
子どもOKの物件とはいえ壁が薄く、絵美が生まれてからは、泣き声がお隣さんの迷惑になっていないか、といつも心配だった。
また、3階建の最上階だったので、夏はとても暑く、冬はかなり冷え、身体にこたえた。
これから子育てをしていくにあたり、建物内の環境であったり、街の賑やかさや雑音であったり、色々な面が引っかかるようになっていた。

そんなときに決まった洋平の転勤。
武蔵中原駅近くの小学校への勤務が決まった。
洋平と夏希は話し合い、このタイミングで住み良い物件に引っ越すことを決意。
洋平の職場の徒歩圏内である武蔵中原駅周辺で物件を探し始めた。

実際、洋平には少し迷いがあった。
これまで住んでいた川崎駅のまわりは、賑やかで少しうるさかったが、ラゾーナなどの大型ショッピングモールがあり便利だった。
また、海に行くのも車の便が良かったので、趣味のサーフィンにも行きやすかった。
それに比べ、武蔵中原駅周辺は静かで落ち着いた住宅街。海からも遠ざかる。
洋平のテンションが急降下していくのを、夏希も感じていた。

「洋平、本当は武蔵中原に引っ越したくないと思ってる?」
「い、い、いやそんなことはないけど、、?」
「顔に引っ越したくないって書いてあるよ。笑」
「え、、、笑 そんなことないよ。だって3人のこれからの生活を考えると、絶対こっちの方がいいと思うし。でも、ワガママだけど、、海から遠くなるのは、なんていうかサーファーとして寂しい、みたいな?笑 ただそれだけ。」
「まぁその気持ちわからなくはないけど。とりあえず、知り合いにとっておきの物件があると紹介してもらったから、明日見に行こう!」
「オッケー。まずは見てみないとわからないもんね。夏希、色々ありがとう。」

こうして見に行った物件を、2人はなんと即答で決めた。
決め手は、海を感じるブルーを基調としたカラーリングの部屋。
サーフィンの絵や植栽などが飾られていて、とても雰囲気が良かったから。

「海がお好きだと聞いたので、このお部屋はぴったりだと思います。子育てもしやすい環境ですよ。」と爽やかイケメンの大家さんが話してくれた。

「海からは少し遠くなるけれど、部屋で海を感じることができる。なんだかいいなぁ。すごい直感だけど、この家いいと思う。」
「うん。わたしもただの直感なんだけどね。すごくいいと思う!」