不安をなんとかワクワクの気持ちに変えるべく、2人は両親に空を預け、横浜、武蔵小杉、そして人気エリアと言われる二子玉川を、週末の休みを使って回ってみることにした。

「わあー。都会って感じ!すごいね!」
「こんなところで働くなんて、想像もしてなかったよ」
「本当ね。こんなに人がたくさん行き交う街で暮らすなんて。ちゃんとやっていけるかしら。。物件を探してみたけれど、横浜、武蔵小杉、二子玉川はさすが人気エリア。高くてとても住めないわね。都内なんてとてもじゃないけど無理。」
「そうだね。想像をはるかに超えていたね。どうしようか、、、。あ、そういえば友人の知り合いが賃貸のオーナーさんらしくて、もし困ったことがあればどうぞってさっき連絡が来たんだ。一か八か、一度尋ねてみるのもいいかも。」

恭平はさっそくオーナーに連絡をし、奇跡的に次の日に会えることになった。
待ち合わせたのは、武蔵中原駅。武蔵小杉からJR南武線で一駅の距離とはいえ、昨日回ったエリアとはなんだか違うゆったりとした空気に、2人の緊張は少しずつほぐれていった。
オーナーさんは、とても気さくで親切な人だった。長年このエリアに住んでいて地域の事情も熟知しているし、空にぴったりの幼稚園を紹介してくれたことにとても信頼が持てた。
そして何より2人がワクワクしたのが、家だ。賃貸物件の内覧といえば、物がなにも置かれていないガラリとした空間を想像するが、そこはカフェ好きの2人が訪れるのを待っていたかのように、ボタニカルなテイストでステージングされていた。
「わあ。なんかとても素敵・・・!」
「うん。いいね!」
「よくある普通の間取りなのに、アレンジでこうも変わるのね。こんな風に棚にレコードを飾りたいね。」
「観葉植物はここで、こっちにはデザイナーズチェアなんか置いちゃったりしてね。」
「ふふふ。」

恭平と藍は、一瞬でその家が好きになった。
不安の中にも、憧れがあった都会暮らし。でもどこかで故郷との共通点を見つけ、心を繋いでおきたかったのかもしれない。その家から見上げる空は、とても広く感じられた。2人が回った都会のイメージとは少し違う、故郷で見るような広い空。

「やっぱり、こういうところが落ち着くね。背伸びをしない。でも、自分たちらしい暮らしを実現しながら、少しずつチャレンジもできる。ここはそんな場所なんじゃないかな。」
「うん。私、この家がいいな!」
「ここから、新しい暮らしを始めよう。」

恭平と藍、空の日課は、
毎日一緒に駅まで歩きながら「きょうの予定」を話すこと。
週末に、武蔵小杉や元住吉、溝の口のカフェを巡ること。
横浜までドライブすること。
IKEAで買い物すること。
植物園で観葉植物の品定めをすること。
まだまだたくさん、やりたいことが湧いてくる!

Fin.