「できたよー。」
「こっちも入った。」
朝。美和がつくるベーコン入りのホットサンドと、誠司がハンドドリップで淹れるホットコーヒーの香ばしい香りが、ラジオの音と混ざりあって部屋に広がっていく。

「今日は天気いいから散歩でもしよか。」
「そうやねー。最近雨続きやったから、畑の様子も気になるし。ゆっくり歩きながら行きましょか。」

美和と誠司の週末の日課は、すぐ近くの江川せせらぎウォーキングをのんびり散歩すること。
そしてそのあと貸し農園で育てている野菜を愛でること。

「お!カルガモの親子がいる。関東来てからはなかなか見かけなかったけど。」
「ほんまやなぁ。京都の実家近くではよく見るねんけどなぁ。かわいいなぁ。」
「近所にこういう自然があるのはいいね。」
「あ、近くに住んでる金田さんや。おはようございます!今日もランニング頑張ってはりますね。」
「おはよう!久々にいい天気だね!ご夫婦そろってウォーキング。いいですね。また家で一杯飲みましょ。奥様もぜひ。」
「はい、また今度!」

誠司56歳。美和55歳。2人は、新しい家で再び2人の時間を紡ぎ始めている。

誠司と美和は、1年前の春に子育てを終えた。
もともと家族4人で住んでいたたまプラーザは、交通の便もいいし、ショッピングモールもあって、生活には全く困らなかったのだが、
「仕事に子育てにバタバタと過ごした日々から、別の風が吹く場所へ移りたい」という意見が2人の中で合致し、分譲マンションを売って引っ越すことにした。

2人が新しい住まいとして選んだのは、JR南北線武蔵中原駅から歩いて20分ほどの賃貸アパート。
駐車場込みで10万円以内で探していたところ、ちょうどいい物件に巡り会えた。
誠司は、宮前区の撮影スタジオに勤務。美和は武蔵小杉のアトリエに通勤している。
「駅から遠くてもゆっくり暮らせる場所」
「等身大のコンパクトな空間」
この2点が、物件選びのポイントになった。